グラフェンはこれまで試験された中で機械強度が最も高い材料の1つである。破壊強度は鋼鉄の200倍あり、引張係数は1TPaである(標準的なピアノ線の引張強度は3000MPa=0.003Tpa程度*)。また、室温付近でのグラフェンの熱伝導度は約5000W/m・Kと高く、カーボンナノチューブ(CNT)やダイヤモンドの値を上回っている。単位重量あたりの表面積も、2500m2/g程度という巨大な値となる。こうした優れた材料特性を利用するため、グラフェンを材料表面にコーティングしたり、材料中にグラフェンを混合・分散させたグラフェン複合材料の研究開発が進んでいる。すでに市場投入の段階に入っているものもあり、今後は幅広い分野の工業製品にグラフェンが使用されるようになっていくと予想される。本稿では、グラフェンを使用した最近の応用製品事例を紹介する。
 * JIS規格A種またはB種のピアノ線で線径0.1mm程度の場合 
 
■様々な製品分野で始まっている市場投入

 グラフェンの力学特性や熱特性の利用については、材料に塗ったり混ぜたりするだけで性能向上効果が得られるため、グラフェントランジスタなどの電子デバイス応用と比べると応用製品化は行いやすい。市場投入が始まっているグラフェン応用製品の多くは、こうしたアプローチで材料強度、耐久性、潤滑性、弾性などを高めたり、軽量化を図ったりしているものである。
1. ヘッドフォン
 日立マクセルは、ヘッドフォンの振動板にグラフェンをコーティングした製品を開発し、販売を開始している。振動板にコーティングすることにより、振動時に変形しないための硬度と、振動板を速く動かすための軽量化を実現した。音の伝播速度の向上、高周波域の再現性、音の濁りの原因となる振動板の分割振動の抑制などの効果があり、高精細なハイレゾリューション音源に対応できる音響性能を得られるという(資料1)。
2. 自転車部材
 Vittoriaは、自転車用タイヤや、自転車用カーボンホイールなどの製品にグラフェンを利用している。従来の天然ゴム製タイヤチューブでは、スピード・グリップ力・耐久性・耐パンク性能などの間にトレードオフの関係があり、どの性能を優先させるかを選択する必要があった。タイヤ素材にグラフェンを混ぜることで、性能間のトレードオフが解消され、すべての性能を同時に引き出せるようになったという。最新製品ではグラフェンを使用していない製品と比べて転がり抵抗が40%低減され、高速走行が可能になったとしている(資料2)。また同社カーボンホイールは、グラフェンを使用することで全体の強度を最大50%高め、軽量化に成功。リムブレーキ面の温度上昇の軽減、スポーク穴の強度向上、横方向の強度向上などの効果を得られたという(資料3)。
3. テニスラケット
 HEADは、テニスラケットにグラフェン複合材料を使用して、軽量化と強度向上を進めている。同等のスイングウェイト(ラケットを振ったときの重さ=慣性モーメント)を持つ従来品と比べて、20%の軽量化に成功したという。グラフェンの利用によって、ラケットのシャフト部の強度とねじれ剛性を高めて安定化し、ウェイト配分の最適化を行っている。ウェイト配分最適化によって、より少ない力で大きなパワーを得られるようになったとする(資料4)。
4. 釣り竿
 釣り竿は、かつて主流だったグラスロッドからカーボンロッドに移行することで、軽くてよくしなり、折れにくい製品が普及した。近年、カーボンロッドの性能をさらに高める方向で、従来の炭素繊維材料を一部グラフェンに置き換えた製品が市場に現れ始めている。G-Rodsは、炭素繊維とグラフェンを複合し、バス釣り用ロッドを製品化。Mackenzieは、樹脂とグラフェンの複合材を用いたフライフィッシング用ロッドを製品化している(資料5資料6)。
5. 二次電池
 グラフェンの高い導電性や巨大な比表面積を利用した二次電池も、製品化の段階に入りはじめている。東レは、グラフェンを用いたリチウムイオン電池用導電助剤を開発。カーボンブラックの導電助剤をグラフェンに置き換えることで電池の高出力化が可能とした。導電助剤の使用量を減らして電極活物質を増量することにより、電池の高容量化も図れるという(資料7)。また、東旭光電科技は今年、すでにグラフェンを利用したリチウムイオン電池を製品化したとしてプレス発表を行っている。この電池はスマートフォンやタブレット端末向け用であり、15分間でフル充電可能、電池容量は4800mAhであるとした。同社の説明によると、3500回の繰り返し充放電が可能であり、従来型リチウムイオン電池の7倍程度の長寿命も達成しているという(資料8
 
■グラフェン応用製品に幅広く活用されるグラフェンプラットフォームの製品群

 このようなグラフェン応用製品の開発および量産には、粉体状グラフェンや、溶液中にグラフェンを分散させたグラフェン分散液などが使用される。市場でシェア拡大していく上では、性能だけでなく、従来材料と比較したコスト面の問題がクリアされていることが必要であり、低コストでの製造技術の確立が欠かせない。

 グラフェンプラットフォーム株式会社(本社:東京)は、天然黒鉛を剥離して生成したグラフェンパウダーやグラフェン分散液の提供を行っている。同社製品の特徴は、天然黒鉛からのグラフェン剥離技術によって、高純度・高濃度のグラフェンを低コストで得られる点にある。この剥離技術は、天然黒鉛に処理を加え、結晶性の低いABC型積層の結晶構造を多く含む物質(グラフェン前駆体)に変換することで、グラフェンに剥離し易くするというもの。同社はグラフェン前駆体の物質特許を保有しており、現在世界中で応用製品化に利用されているグラフェンの多くも、この特許に関係するものとみられる。

 同社では今後、更に効率的な製造方法を開発し、グラフェンの低コスト化(製造原価:1kg当たり3000円以下)を図ることにより、グラフェン応用製品の市場拡大に寄与していくとしている。

 
【より詳細な情報】
グラフェンプラットフォーム社のグラフェンパウダー
http://grapheneplatform.com/jp/graphene/graphene_13.html
同社 グラフェン分散液
http://grapheneplatform.com/jp/graphene/graphene_12.html