マンチェスター大学の研究チームは、グラフェンなど二次元材料を用いて、インクジェットプリンタで使用できる水系インクの製法を開発した。さらに同インクの生体適合性についての評価も行った。バイオ医療分野に応用可能なプリンテッドエレクトロニクス用材料として期待できる。2017年1月30日付けの Nature Nanotechnology に論文が掲載されている。

グラフェンを利用した生体デバイスのイメージ(出所:マンチェスター大学)

 グラフェンを利用したインクジェットプリンター用インクはこれまでにも開発されてきたが、製造時に有害な溶媒を使用していたり、インクの濃度が低かったり、作製に時間やコストがかかるなどの問題もあり、理想的なインクとは言えなかった。また、薄膜へテロ構造の作製に適したインクもできていなかった。ヘテロ構造の場合、種類の異なる二次元結晶が混在することによって、界面制御が上手くいかず、デバイス性能が発揮できていなかった。

 研究チームは今回、グラフェン、MoS2、WS2、六方晶窒化ホウ素(h-BN)など、様々な二次元材料を用いてインクジェットプリンタ用の水系インクを開発し、これら複数の種類のインクを利用したヘテロ構造の積層デバイスの作製を試みた。具体的には、プラスチックや紙の上に大面積配列した光検出素子を印刷形成したり、読み出し専用メモリ(ROM)などを作製し、デバイス動作の実証を行った。

 ヘテロ構造の光検出素子では、オフ状態からオン状態に切り替わるときに1桁の電流増加があり、1mA/W超の応答性が得られた。これまでに報告されている液相剥離による二次元結晶を用いたデバイスと比べるとかなり良い値になっている。

 二次元材料を用いてインクジェット印刷でROMを作製した例は、これまでになく、今回の研究がはじめてであるという。こうした技術は、製品の個体識別番号を記録するRFタグの印刷に応用できる。ダイオードやトランジスタを付加することによってさらに複雑な機能を持たせることも可能であると考えられる。

 研究チームはさらに、二次元インクの細胞毒性に関する研究も行った。最終製品のユーザーの皮膚への接触および二次元材料を扱う製造ラインの労働者の肺への暴露を想定し、インクの安全性を評価した。インクの投与量を増やしながら24時間後の細胞の生存率を調べる試験では、比較のために置いた非処理細胞との間に生存率の差は見られなかった。結局、すべてのパターンのインク投与において、目立った細胞毒性は認められなかったと研究チームは結論している。

 ただし、二次元インクで処理した細胞組織を光学顕微鏡で観察すると、細胞組織と二次元材料との間に強い相互作用が起こっており、組織と材料の結合や、組織内への材料の取り込み(内部化)が起きていることも分かった。この点については今後、より詳しい調査が必要であるとしている。
 
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