名古屋大学の研究チームは、SiC熱分解法で生成した炭素原子バッファ層を900℃から-196℃に急冷し、グラフェン化することに成功した。グラフェンの負の熱膨張率を利用する。急冷グラフェンは5×5mm2サイズの基板全体にわたって均一な単層・単結晶で、基板由来の歪みもない。正孔伝導が見られ、基板・界面層による電子のフォノン散乱が劇的に低減されるという。2016年11月8日付けの Physical Review Letters に論文が掲載されている。

バッファ層の急冷によるグラフェン化(出所:名古屋大学)

 名古屋大学大学院工学研究科 乗松航助教、中国内モンゴル民族大学 包建峰講師、名古屋大学シンクロトロン光研究センター伊藤孝寛准教授、名古屋大学未来材料・システム研究所 楠美智子教授らの共同成果。

 SiC熱分解法によるグラフェン生成では、シリコンカーバイド(SiC)基板を不活性ガス雰囲気中で加熱してシリコン原子を昇華させ、表面にグラフェンとほぼ同じ構造を持つ炭素原子層(バッファ層)を生成する。このバッファ層上にグラフェンを成膜することで、基板全面に均一な単結晶単層グラフェンを得られる。ただし、バッファ層中の炭素原子は基板との結合を残しており、バッファ層上にグラフェンを形成すると、グラフェン中の電子がバッファ層中の原子の熱振動によって散乱され、温度が高いほど移動度が低下するという問題があった。

 グラフェンは、負の熱膨張係数を持っており、加熱すると収縮し、冷却すると膨張する性質がある。一方、SiCは正の熱膨張係数を持つため、SiC上に形成したグラフェンとほとんど同じ構造を持つバッファ層を冷却すると、バッファ層は膨張し、SiCは収縮すると考えられる。研究チームは今回、急冷処理によってこの変化を急激に起こすことで、バッファ層とSiCの結合が物理的に切断されてバッファ層がグラフェン化し、フリースタンディング状態のグラフェンになるのではないかと考えた。

 実際900℃に加熱したバッファ層試料を-196℃の液体窒素中に投入して急冷した結果、バッファ層をグラフェン化することに成功した。得られたグラフェンは5×5mm2の基板全体にわたって均一な単層グラフェンであり、正孔伝導を示すことがわかった。また、熱振動による電子の散乱が劇的に低減されていることも明らかになった。

 これまで、類似した効果を得るためには、爆発性のある高純度水素ガス中で600℃以上に加熱する必要があり、危険を伴っていた。今回の技術を用いることで、そうした危険を生じることなく温度上昇に伴う移動度の低下を制御することが可能であるとする。なお、同技術は名古屋大学から特許出願・公開済みとのこと。
 
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