富士通研究所は、グラフェンを利用した新原理の高感度ガスセンサーの開発に成功した。対象ガスによっては数十時間かけて観測していた大気環境をリアルタイムに観測する装置や、生活習慣病の早期発見のための呼気中のガス成分を手軽に分析する装置などの実現が期待される。技術の詳細は、2016年12月に米国サンフランシスコで開催された国際会議「IEDM 2016」にて発表された。

グラフェンゲートセンサーの模式図と製作したセンサーの走査電子顕微鏡像(出所:富士通研究所)

 大気汚染検知や人の呼気中に含まれるガス検知などのため、高感度(ppb単位)で、特定のガス成分を高精度に測定できるガスセンサーが望まれている。ガスクロマトグラフィーなど専用の装置を使えば、極めて高感度に各種ガスを検出することが可能だが、装置が大型であり、測定に時間がかかるなどの課題があった。携帯可能でリアルタイム測定が可能なものとしては、半導体式ガスセンサーなどがあるが、一般には感度がppm単位であり、特定のガス成分を検出するには性能が不十分である。グラフェンを利用したガスセンサーとしては、これまでガス吸着時のグラフェンの抵抗値の変化を検出するセンサーが提案されているが、濃度1ppmのガスに対して抵抗変化率は数%程度であり、実用化には至っていない。

 今回、グラフェンを利用した新原理のガスセンサーを開発した。同センサーは、通常のシリコントランジスタのゲート部分を原子一層分の厚みのグラフェンで置き換えた構造を持つ。ガス分子がグラフェンに吸着すると、グラフェンの仕事関数が変化し、その結果シリコントランジスタのスイッチング特性が大きく変化する原理を利用してガスを検出する。ガス分子がグラフェンから離れると元の状態に戻る。

(a)グラフェンゲートセンサーの出力の二酸化窒素濃度依存性 (b)アンモニア濃度依存性 (c)各種ガスに対する応答(出所:富士通研究所)

 今回開発されたセンサーは、窒素中においてNH3については数十ppb程度、NO2では1ppb以下の感度を実現した。また、実験の結果、大気成分の分析や呼気分析などを想定したガスの中では、NO2、NH3にのみ反応し、特定のガスだけを検出できることが確認された。NO2に対する感度は1ppb以下であり、従来のグラフェンを用いた抵抗変化型センサーや市販の数十ppbの感度を持つ電気化学式センサーと比較しても10倍以上の性能であることが分かった。

 同センサーは、検知部分が数百μmと小型であるが、さらに1μm以下まで小型化することが可能であるという。従来技術より感度が高く、検知が化学反応によらないため、熱を加えるなどして吸着したガスが離れると元の状態に戻るという特徴を持っている。このセンサーを使うと、大気汚染の指標として40から60ppbという環境基準があるNO2について、場所を選ばず、リアルタイムで高感度に測定する小型装置の実現が可能になるとしている。

 今後は、実環境中での特性検証や耐久性調査などを行った後、環境センサーとしての実用化を目指す。また、グラフェンと他の分子などを組み合わせることにより、二酸化窒素、アンモニア以外のガスの検知も目指すという。
 
発表資料