グラフェンは鋼鉄の200倍の破壊強度、ピアノ線より3桁高い引張強度を持っており、極めて優れた力学特性を備えた材料である。このため本来的には、土木建築用資材、構造材料への適合性も高いと考えられるが、低コストの資材を大量に使用する分野だけに、実際の応用はまだそれほど進んでいない。本稿では、建築用途へのグラフェン応用に関する最近の研究成果や、一部で始まっている応用製品の事例についてまとめる。
 
■酸化グラフェン複合セメントの研究事例

 建設資材へのグラフェン応用に関しては、粉体のグラフェンを既存材料に混ぜることで材料特性を強化するグラフェン複合材料の研究が進められている。カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)と比較すると、酸化グラフェンは水に分散させやすいため、材料の複合化処理を行いやすいという利点がある。酸化グラフェン分散水を用いてセメントと酸化グラフェンの複合材料を作製し、その特性を評価する研究などが進んでいる。

 Kai Gongらは、修正ハマーズ法で作製した酸化グラフェンをセメントペーストに分散させ、材料特性の評価を行った。その結果、酸化グラフェンシートを0.03重量%の濃度で分散させることにより、セメントの圧縮強度および引張強度がともに40%以上向上したと報告した。これは酸化グラフェンの分散によってセメントペースト内の空孔構造が減少するためであると考えられている。またセメントの水和度も強化されることが分かった。ただし、酸化グラフェン複合セメントは、通常のセメントと比べて加工性がやや劣るという(論文)。

 Babakらは、剥離処理によって作製した酸化グラフェン水溶液を用いたセメント複合材料の特性評価を行った。この研究では、酸化グラフェンフレークのセメントペーストへの分散性を向上させるために、ポリカルボン酸塩系高流動化剤(混和剤)を用いた。酸化グラフェン0.1~2重量%、混和剤0.5重量%の濃度で分散させた複合セメントでは、分散なしのセメントに比べて引張強度が48%向上した。複合セメントの表面を砕いて、超高分解能の電子顕微鏡で観察した結果、酸化グラフェンのナノフレークは母材によく分散しており、凝集物は見当たらないことが確認された。また、電子顕微鏡像からは、酸化グラフェンの表面が周囲のセメント母材とよく結合していることも観察された。X線回折(XRD)による分析からは、酸化グラフェンセメントモルタル中では、通常のセメントモルタルと比べて、ケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)の成長が顕著に見られることが分かった(論文)。

 Shenghuaらは、超音波処理で分散させた酸化グラフェンを用いて作製したセメント複合材料のマイクロ構造の観察と力学特性の評価を行った。電子顕微鏡による観察から、酸化グラフェンナノシートの分散によって、花びら状のセメント水和物の結晶形成が促されるとした。また、引張強度と屈曲強度に顕著な向上があったとした(論文)。

 Teng Tongらは、酸化グラフェンナノプレートレットを分散させたセメント複合材料の形状を原子間力顕微鏡(AFM)で観察し、ヤング率の測定を行った。酸化グラフェンの分散によってセメントペーストの構成相は著しく変化し、この変化がコンクリートの強度および耐食性能に直接関連しているとした(論文)。

 これらの報告は、わずかな濃度で酸化グラフェンを分散させることによって、セメント材料の性能が向上することを示している。この分野の研究はまだ始まったばかりであり、今後より系統立てた詳細な研究が進むことを期待したい。
 
■普及のカギはグラフェンの低コスト量産技術

 建築資材分野でも、グラフェンを応用した製品の提供が一部で始まっている。その1つが「GRAPHENESTONE」という壁用塗料で、消石灰を用いた漆喰の一種である。漆喰にグラフェンを混ぜることで防湿・防カビなどの効果を得られるとしている(資料)。ただしこうした実用例はまだ少ない。建築資材は低コストで大量に使えることが大前提となるので、既存の材料をしのぐ廉価な材料としてグラフェンを大量生産できる技術が確立されないと普及は望めない。

 グラフェンの低コスト・大量生産技術に関しては、グラフェンプラットフォーム株式会社(本社:東京)の取り組みが注目される。同社は、天然黒鉛を剥離して生成したグラフェンパウダーやグラフェン分散液の提供を行っており、独自技術によって高純度・高濃度のグラフェンを低コストで実現している点に同社製品の特徴がある。

 この剥離技術は、天然黒鉛に処理を加え、結晶性の低いABC型積層の結晶構造を多く含む物質(グラフェン前駆体)に変換することで、グラフェンに剥離し易くするというもの。同社はグラフェン前駆体の物質特許を保有しており、現在世界中で応用製品化に利用されているグラフェンの多くも、この特許に関係するものとみられる。

 同社では今後、更に効率的な製造方法を開発し、グラフェンの低コスト化(製造原価:1kg当たり3000円以下)を図ることにより、グラフェン応用製品の市場拡大に寄与していくとしている。
 
【より詳細な情報】
グラフェンプラットフォーム社のグラフェンパウダー
http://grapheneplatform.com/jp/graphene/graphene_13.html
同社 グラフェン分散液
http://grapheneplatform.com/jp/graphene/graphene_12.html